スイッチャーの入力をプリスイッチングしたい

 VTR中のワイプの中身(リアクション)をディレクターがスイッチングしたいという要望があったので紹介したい。
 ここでは他M/Eバスはすべて埋まっており、ワイプはリサイザーでKEYスーパーすることとする。

 アイソのOUTをスイッチャーにリエントリーする方法が思い付くがこれではいけない。アイソのOUTはスイッチャーのAUXバスだったり、AVDLを通った系統であったりと、1H以上遅延していることがほとんどであるため、よくあるスイッチャーの引込範囲(-0.5H〜+0.5H)に入らないだろう。
 引込範囲に入らないと画面が数ライン下がり、画面上部に黒味が現れる。これをライン落ち(ラインごけ)という。

 プリスイッチに使用するクロスポイントは、ブランキングスイッチであればクリーンスイッチである必要はない。これはスイッチャー内部の各M/EバスごとにAVDLが入っていると考えれば良い。
 ブランキングスイッチはスイッチングポイント(7ラインまたは569ライン)で切替えられたOUTのことで、クリーンスイッチとはスイッチャーのAUXバスやAVDLを通ったスイッチング系統のことである。なおこれらはブランキングスイッチでもある。

 タリーに関してはシステムによって遡りも含めて設計の思想が異なると思われるため、事前に確認することを推奨する。

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映像領域とブランキング領域

 下図はHD (1.485Gbps) における映像領域(黄色)とブランキング領域(橙色)を示している。

図 映像領域の下にもブランキング領域がある

 なお、1[μS]は0.000001[S]となり、私達は日々、100万分の1秒単位の信号を扱っているということになる。

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FSとAVDLの使い分け

 「FS」という呼称ながら、FSモードとAVDLモードを切替えてAVDLとしても使える機材がある。どのような時にどちらのモードを使うのか。

(1) FS(Frame Syncronizer)モード
 主に入力段で使用するモード。小型カメラやスマートフォン等、GEN LOCKしていない機材をシステムに取り込む時に使用、最大1フレーム遅延する。

(2) AVDL(Automatic Video Delay Line)モード
 主に出力段で使用するモード。スタジオカメラや上記FS出力等、GEN LOCKしている機材どうしを切替える時、書き出し位置を揃えて切替えてショックが出ないようにする。数ライン〜数μ秒遅延する。

 (2)に関してもう少し補足すると、AVDLモードではGEN LOCKしていない小型カメラやスマートフォンの信号を取り出すことはできず出力が乱れる。
 主な使い方としては、ルーターの切替えOUTに接続し、そのOUTを収録したり、再撮モニターに表示する時に使用する。
 AVDLモードの中に10H AVDLモード、1H AVDLモード等があり、用途によって使い分ける(ルーターのVE列や再撮列には10Hモード、SW'ER後段のSEND SW後には1Hモード等)。

 下図は10H AVDLモード(上段)、1H AVDLモード(下段)を表したもので、黄色が引込み範囲(ウィンドウとも言う)、橙色が処理時間を示している。

図 よく見かける引込み範囲と処理時間の例。他にも3H AVDLや5H AVDLを見かける

 実際の運用ではスイッチングしたい素材がすべて引込み範囲に入るように出力位相を遅らせる。

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ラインチェックにおける本社側と中継先の立場

本社側「時間どおりにラインチェックしたい」
中継先「スケジュールどおりに進行せず時間どおりにラインチェックができない」

 中継先から回線をもらい生中継を行う際、本番前にラインチェックを行う。そのタイミングについて本社側と中継先のスタッフでそれぞれの事情がある。

 中継先のVEによると、ラインチェックの予定時刻にリハーサルが伸びるなどして、基準信号(カラーバー・1kHz)を出せないことがあるという。
 一方中継を受ける本社側のVEによると、その時間に合わせてセットアップしており、労務上ラインチェックの時間を早くすることは難しく、トラブルシューティングの観点から遅くすることも避けたいという。

 どちらの事情も理解できる。ラインチェックのために早く出社できない、だが放送事故はあってはならないという矛盾を解決するために、VEができることは無いだろうか。

ラインチェックができないからと席を外してはいけない。リハーサル中の生画と生音にて、映像と音声にノイズが乗っていないかを確認する。
 扱う信号がSDIになってから、信号経路上のFS等の機器の設定がデフォルトになっていれば信号レベルがズレてしまうことはない。反対にデフォルトなのに信号レベルがズレてしまうということであれば、機材の不調を疑うことになる。 これを踏まえると、ラインチェックの前にサブコンのFS等の機器の各種設定がデフォルトになっているか確認しておく必要がある。ここで言うデフォルトは、入力した信号レベルがズレることなくそのまま出力される設定になっていることを指す。

 さっそくリハーサル中の生画と生音にて、映像と音声にノイズが乗っていないかを確認してみる。ここでノイズが疑われても、すぐに中継先に問い合わせてはいけない。まずは本社側でノイズが発生していないかを確認していく。

 ここで発生時刻や頻度、どのようなノイズなのかをメモしておくと良い。例えば、XX時XX分XX秒頃:映像が黒味に落ちる、5秒〜10秒間隔で音声にプチッというノイズが乗る等というようにメモしておく。

 確認作業の話に戻る。サブコン内を確認するには、中継回線をもらっている最上流にTSGを割り込んでみると良いだろう。また別ラインで進行中のリハーサル中の生画・生音を監視できるとなお良い。切り分けにもなるからだ。

 映像は波形モニターでY,Cb,Crのレベルを確認する他にも、measure機能を使ってCRCエラーの確認を、音声はヘッドホンを用いて検聴する。

 サブコン側が問題無いということが分かったら、さらにその上流の回線センターや回線業者に確認してもらう。ここで先程のメモが役に立つ。
 こちらでノイズが確認できなければさらに原因を特定することになる。反対にサブコンと同じようにノイズが確認できたとしたら、中継先のトラブルの可能性が濃厚になってくる。早急に中継先に連絡して状況を伝える。

 カラーバーをOAするわけではないので、これまでのチェックである程度の安全は担保されるだろう。あとは中継先が落ち着いたところで基準信号を出してもらい最終確認、リップシンクのチェック等も行って本番に備える。

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「見やすい番組資料」とは?

 特番のみならず日々の番組においても番組資料を作成することがある。

 特番において系統図(接続図)等を作成、本番の数日前からメンバーに展開したところ「プリントアウトしたらフォントサイズが小さくて見えない」、「タブレットで見ているが拡大縮小を頻繁にしなければならない」「詳細すぎで必要な箇所が見つけづらい」などのご指摘をいただいたことがある (なおこの時は修正は行わず、A3サイズ4枚に分割コピーして貼り合わせて掲示した)。

 ご指摘を受け、見やすい資料を心がけたつもりが美しさやまとまりを最重視した資料となっていたことに気付かされた。では見やすい資料とはどういうものなのか考察してみた。

 私の例では、まずはフォントは大きく(最小でも8ポイントまで、フォントの選択等)、省略できる部分は極力省略(例えばDDA OUTの番号は書かない等)、反対に制御系などは思い切って別資料化する等の変更を行ったところ、表立ったご指摘を受けることはなくなった。

 その他に留意していることとしては、当日システムを構築している段階において、チーフが現場につきっきりになり指示出ししなければならなかったり、資料の解説をしなければならなかったりというのは好ましい状態とは言えない。また、一つの系統にも関わらずページを渡らなければならない資料も良い資料とは言い難い。
 最も避けたいのが、バージョン管理ができていない資料で、変更が発生したにも関わらず、修正された箇所とそのままの箇所が混在していまっている状態である。

 見やすい番組資料とは「思考停止していても理解できる資料」、「系統図が読めるVEならば誰でも理解できる資料」、「チーフがその場に不在でもチーフの意図通りにシステムを組み上げられる資料」ではなかろうか。
 初めの「思考停止していても・・・」は最も重要で、制作等からの系統変更などの依頼は時として多忙なタイミングで訪れる。現場が混乱し思考停止気味でも資料を見れば間違えることなく変更作業を行えることが重要なのである。

 私自身実現できていないのだが、レゴブロックやIKEAの組立図のような、最低限の文字とビジュアルだけで伝えられる資料を目指したいと試行錯誤している。

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VJP(パッチ盤)調査のすすめ

 スタジオ全体の系統を理解するにはどうすれば良いのか。明快に系統図を理解できるスキルがあれば良いのだが、それが足りないと感じている場合にはVJP(パッチ盤)の調査をしておきたい。

 VJPにはほぼ全ての信号が立ち上がっているので、これを調査することによってシステムを理解するきっかけとなる。それなりに時間と労力が必要ではあるものの、それなりに効果は見込めるだろう。

 筆記具と紙(台本のメモページやキューシートの裏など)を用意したら、若番のVJPから順番に書き出してゆく。若番から行うのは、特別な事情がない限り、システムの上流がVJPの若番になっているからだ。
 調査と平行して、このVJは系統図上ではどこなのかを確認する。また実機がどこにあるのかまで確認できるとなお良い。

このような調査シートを用意しても良い。

 調査が終わったら清書しておきたい。番組の系統を復習する時、特番のシステムを考える時など、現地にいなくても手元ですぐに確認することができる。

Excelに入力、PDF化していつでも閲覧可能にしている。
ここまで完成させておけば、後々自分の財産として有効活用できる。

 他人のものをコピーするだけでは、そのシステムは自分のものにならない。やはり時間と労力を割いて行う意義は大きいだろう。

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WFMの波形表示について
-波形の左側の方が時間的に早い-

 下のWFMの波形表示をご覧いただきたい。これはグレースケールチャートを撮像した時の、Line表示、Field表示である。

Line表示 Field表示

 これらの波形に共通していることは、波形上、左側の方が時間的に早く、右に進むにつれて時間的に遅くなるということである。

 ますはLine表示について、波形と映像をリンクして考えてみる。

Line表示 映像上でのイメージ
厳密にはがデータ領域分右にはみ出る。
が1125本あることを示している。

 Line表示の波形に赤矢印()を書き込んでみた。そして映像にもこれに対応する赤矢印()を書き込んだ。 これは水平方向の走査だ。走査は左から右へ行われるのだから、Line表示上の左側が時間的に早く、右に進むにつれて時間的に遅くなるということが容易にお分かりいただけるだろう。

 さて次に、Field表示についても同じように波形と映像をリンクして考えてみる。

Field表示 映像上でのイメージ
が2つなのは飛越し走査のため。

 先ほどと同じようにField表示の波形に赤矢印()を書き込み、映像にもこれに対応する赤矢印()を書き込んでみた。 Field表示上の左側が映像でいう画面上部で、波形表示の右に進むにつれて映像の下の方になってくる。つまり波形表示の左はラインの若番で、右は老番ということになる。
 垂直方向の走査は上から下(ラインで言うと若番から老番)に行われるのだから、Field表示も左側の方が時間的に早く、右に進むにつれて時間的に遅くなることが分かる。

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まずはIRISを揃えるところから

 複数台のカメラを使用する時のこと。カメラ調整中のIRISにバラツキがあったり、本番中の各カメラのIRISが揃っていないVEさんを見かける。

 後者の場合は、"スイッチングした時に違和感のないIRISにする"ことが大前提であるが、背景にあるセットの配色や明暗によって目の錯覚が起き、IRISが揃えられないこともままあるようだ。

 「○カメのIRIS、絞りすぎじゃない?」と質問をして、「あ、すみません…」という答えが返ってくるのか、「背景が若干明るいトーンなので、少し絞ってみました」と返ってくるのかが注目すべき点だ。

 「すみません」という返しであれば、「まずはフェースを揃えようね」となる。「背景が~」という返しであれば、「それだと絞りすぎだよ。スイッチングした時に違和感があるよ」となり、 感性を磨くという次のステップに移行することになる。

 一方前者の、カメラ調整中のIRISのバラツキは問答無用でNGである。ここに感性は介在しない。 IRISが揃っていなければ、各カメラ間のレベル合わせができないばかりか、カメラ単体においてもGAMMA、FLAREなど各レベルが任意のレベルにならない。

 IRISが揃っていなければ調整中の各カメラ間のレベルも揃わず、本番中のトーンも揃わない。

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カメラ調整時に波形モニターのField表示を使用する

 波形モニターをField表示にしてカメラ調整を行うと、各ポイントのレベルがより正確に合わせられ、また他のカメラとのレベル合わせも行いやすい。
 私がドラマスタジオに配属だった頃、ドラマのVEを担当されているYさんに教えていただいた方法(当時はコンポジットだったが)である。

 まずは、グレースケールチャートを撮像して、Line表示とField表示を比較してみる。

Line表示 Field表示
Line表示 Field表示

 Field表示では、チャート上段に配置される階調は波形の左側に表示されている。試しに照明さんから借用した黒アルミでチャートの上半分を覆ってみる。

チャートの上半分を覆ってみる この時の波形はこのようになる

 つまり、Field表示は、映像(この場合はグレースケールチャート)を90度反時計方向に回しているということになる(チャートの写真はイメージ)。

Line表示 Field表示
Line表示 Field表示

 チャートの階調のひとつひとつが短冊状であるため、Field表示にした際に波形描画が細くなる。波形描画が細くなればレベルの確認や収れんが容易になり、調整精度の向上が見込める。

 反対にKNEE SLOPEの調整にはField表示は向いていない。KNEE POINTからWHITE CLIPの間に階調が集中するため、レベルの確認や収れんが行いづらくなる。

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FLAREのかけ過ぎに注意

 FLAREを強くかけると黒が引き締まり見た目も美しい…しかしこの法則を適用し過ぎるとすると、黒がつぶれたように見え、不自然な映像になってしまう。この原因は何であろうか。
 FLAREを12IREに設定した時と5IREに設定した時では、FLAREの動きにどのような違いがあるのか実験してみた。 通常FLAREを5IREに設定して運用することは考えにくいが、より比較しやすいように5IREを選んだ。尚、GAMMAは59IRE、PEDESTALは5IREにしてある。

 下の写真は、FLAREを12IREに設定した時の様子である。 左からそれぞれ「適正アイリスにした時」、「光量を200%にした時」、「光量を400%にした時」の様子で、波形はComposite・×3 GAIN表示にしてある(チャートの写真はイメージ)。

FLAREが12IREの時

 光量の増加とともにFLARE部分も持ち上がってきているのがお分かりいただけるだろう。

 次の写真は、FLAREを5IREに設定した時の様子である。

FLAREが5IREの時

 FLARE部分の変化が12IRE設定の場合とは異なっていることがお分かりいただけるだろう。IRISを開け光量を増加させていったものの、FLAREはしばらく5IREを維持しようとしている。さらにIRISを開けていくと、 堰を切ったようにFLAREはすっと持ち上がっていった。
 生画では顔や背景は白く飛び気味なのに、髪の毛などは適正IRISの時とほとんど変わらないレベルになっている。これが不自然だと感じてしまう原因だと思われる。

 この実験で行ったIRISを開けていくという操作は、カメラに入ってくる光量を意図的に増加させる操作ということが言える。ことにグレースケールチャートによるカメラ調整を終えてからこの操作を行うということは、 白色の光を逆光で与えているのと同じ状態である。これはFLAREの動作を確認するには非常に適している。

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